近現代の名建築が点在<br>白樺派にも縁深い<br>「清春芸術村・Kiyoharu Art Colony」
美しい自然に抱かれ、春には桜が咲き誇る「清春芸術村」。清々しい空気の中、時代を代表する建築家による個性的な建築が点在し、環境も建築もアートも堪能できる稀有なプライベートミュージアムとして親しまれています。この「芸術村」がつくられた背景や、現在に至るまでの進化の歴史には、数々の興味深いエピソードがありました。そこで、ここのディレクターも務める墨屋宏明氏に詳しくお伺いし、代表的な建築とアートもご紹介いただきました。 この地の美しさに魅せられて芸術村を創設 日本を代表する建築家たちの作品が現在も建てられ、進化し続けている 清春芸術村の始まりは、1977年、桜が満開の季節に小林秀雄氏らがこの地を訪れ、その美しさに魅了されたことでした。1981年には、パリにある「ラ・リューシュ」というオリジナルを再現したアトリエ兼集合住宅を建設。そこから谷口吉郎氏が芸術村の構想を描き、息子の谷口吉生氏が構想を引き継いで、1983年に「清春白樺美術館」が完成しました。 その後、画家ジョルジュ・ルオー氏によるステンドグラス《ブーケ》と、ルオー氏が制作・彩色したキリスト像を譲り受けたことをきっかけに、それらを収蔵・展示するため1986年に礼拝堂が建てられ、2006年には藤森照信氏の「茶室 徹」が完成。2011年には創設30周年記念として安藤忠雄氏の「光の美術館」が加わるなど、建築が敷地内に増え続けてきました。 さらに2026年夏には、建築家・伊東豊雄氏による“内なる自然”をコンセプトとした建築作品「こどもの遊び場」が完成します。 武者小路実篤や志賀直哉ら「白樺派」の悲願であった美術館を 清春芸術村で実現させた 1983年に建てられた「清春白樺美術館」は、その名が示す通り、白樺派が深く関わっています。武者小路実篤氏や志賀直哉氏、バーナード・リーチ氏、柳宗悦氏らが1910年から23年まで活動していた雑誌『白樺』には、当時すでに「みんなで資金を出し合って美術館をつくろう」という構想があったのです。 発端は、白樺派と彫刻家オーギュスト・ロダン氏との交流でした。文通を通じてロダン氏が日本の浮世絵に興味を持っていると知り、30枚の浮世絵を送ったところ、後日、彼のブロンズ彫刻3点が送られてきたのです。が、その頃はそれを収蔵・展示する美術館が日本にはなかったため、「この彫刻のための美術館をつくろう」と会員を募り資金づくりの活動を始めたのでした。ただ、1923年の関東大震災で白樺派の活動は終焉を迎え、その構想は途切れてしまったのです。 それから何十年も経ち、80歳になった武者小路氏が、白樺派の思い描いていた“夢の美術館”をつくるよう創設直前のこの場所に託し、1983年に清春白樺美術館は完成に至りました。 心地よい風が吹き抜ける芝生のガーデンを歩きながら 傑出した建築や厳選されたアートを鑑賞しよう ここからは、清春芸術村の建築をいくつかピックアップしてご紹介しましょう。 (左)パリのアーティストレジデンス「ラ・リューシュ」を日本で再現。パリにもオリジナルが現存している (右)「清春白樺美術館」内部。回廊式のスキップフロアを進みながら作品を鑑賞できる ラ・リューシュ オリジナルの建物は、1900年にパリ万博でワイン館として建てられた後、画家のマルク・シャガール氏やアメデオ・モジリアーニ氏らが暮らしながら活動していたレジデンスとなっていました。ヨーロッパの景気が悪かった1970年代に、荒廃していたこの建物を買い取って清春に移築する話が進んでいましたが、新しく就任したパリ市長シラク氏の意向でパリに残すことになったため、オリジナルの設計図をもとにこの土地に建てられたのです。 ラ・リューシュは国内外からアーティストが集まり、暮らしながら制作を続ける場となりました。私は、アーティストはただ土地を訪れるのではなく、その土地に暮らすように滞在し、自然や歴史をリサーチし、人との出会いから学ぶことで、新しい表現を生み出していく存在だと考えています。そのような歴史が積み重なったこの建築に残る記憶が、人を惹きつける理由なのだと思います。 清春白樺美術館 白樺派の作家たちが抱いた夢を実現した美術館。設計は谷口吉生氏。美術館創設のきっかけとなったオーギュスト・ロダン氏の彫刻をはじめ、白樺派に縁の深いジョルジュ・ルオー氏、梅原龍三郎氏、岸田劉生氏、バーナード・リーチ氏などの作品や資料をコレクションしています。 『白樺』は文学雑誌だと思う人もいますが、当時の最先端の西洋美術を紹介した美術雑誌でもありました。また、白樺派の作家たちは、ゴッホやロダンの作品をいち早くコレクションするとともに、同時代のアーティストの展覧会も企画しました。作品の周りに人が集い、芸術を通して学び合う場をつくることを夢見ていたのです。その思想は、今の清春芸術村にも受け継がれているように感じます。 (左)「ルオー礼拝堂」にある木彫のキリスト像は、ジョルジュ・ルオー氏が制作・彩色 (右)「梅原龍三郎アトリエ」には、本人が愛用していたイーゼルや絵の具箱なども展示 ルオー礼拝堂 フランスの宗教画家ジョルジュ・ルオー氏は、もともとステンドグラス職人でもありました。そのルオー氏が制作したステンドグラス《ブーケ》と、制作・彩色した木彫のキリスト像を譲り受けたため、記念としてこの礼拝堂を建てたのです。設計は谷口吉生氏。 梅原龍三郎アトリエ 先述したように、白樺派のメンバーは展覧会の企画、今でいうところのキュレーションも手掛けていて、同時代のアーティストの展覧会も開催していました。そのアーティストの代表格が梅原龍三郎氏。これは梅原氏自身が使っていたアトリエを移築したもので、設計は旧歌舞伎座の建築でも知られる吉田五十八氏。 (左)落ち着いた雰囲気で本や資料を閲覧できる「白樺図書館」。サポートメンバーのみ利用可 (右)ツリーハウスのような「茶室 徹」。春には満開の桜に囲まれる 白樺図書館 白樺派に関連する文学、評論、美術書などを中心に収蔵。1980年に復刻された雑誌『白樺』も全巻揃っていて、手に取って見ることができます。(サポートメンバーのみ利用可) 茶室 徹 建築史家の藤森照信氏による設計。台風でダメージを受けた敷地内の檜を再利用し、茶室を支えています。室内は1.7坪、高さは地上4m。(通常は入室不可) (左)太陽光の動きを見据えて開口部が設計された「光の美術館」 (右)「エッフェル塔の階段」の一部。傍らには、現代アーティストのセザール氏によるエッフェル像も 光の美術館 設計は安藤忠雄氏。照明を一切つけず、自然光で作品を楽しむ美術館。自然光が差し込むように設計されていて、その光が日時計のように時間とともに動きます。近年は、ここで最先端の現代アートやメディア・アートを展示しています。 エッフェル塔の階段 パリのエッフェル塔が完成100周年を迎えた1989年に、その階段の一部が清春芸術村に移設されました。 実際にこどもたちが中に入って遊べる「こどものための建築」プロジェクト (左)「遊びの塔」 (右)「ホワイト・ループ」 また、さまざまな建築家にパブリックアートを制作してもらう「こどものための建築」プロジェクトが現在進行中です。すでに2つの作品が敷地内に設置されていて、2026年夏には伊東豊雄氏の建築作品「こどもの遊び場」も完成します。 遊びの塔 内田奈緒氏の作品。支柱の内側には傾斜したネットが張られ、こどもたちが自由に上ったり下りたりして遊べます。 ホワイト・ループ(White Loop) 秋吉浩気氏による、樹脂3Dプリンターでつくった滑り台。メビウスの輪のような不思議な形の真っ白な作品でこどもたちが遊ぶ姿も見られます。 清春芸術村の魅力は、一つひとつの建築や作品だけではありません。創設以来、多くのアーティストがこの場所を訪れ、交流し、作品を発表し、ときには滞在しながら創作を重ねてきたこと。そうした時間の積み重ねも、ここならではの魅力でしょう。 ここは一度訪れて終わる場所ではなく、季節ごとに足を運び、その変化を楽しみながら、少しずつ理解が深まっていく場所だと考えています。そのため、清春芸術村を継続的に楽しみ、応援してくださる方のためのメンバーシップ・プログラムをご用意しています。通常は内部を公開していない「茶室 徹」や「和心」を体験できる機会や、「白樺図書館」の利用、蔵書閲覧の機会など、この場所をより深く知っていただくためのさまざまな特典があります。アートや建築、自然を愛する方々が集い、新しい出会いや交流が生まれる場として育っていけば、とてもうれしく思います。 美術館というのは、ただ訪れて作品を鑑賞するだけでなく、その土地に少し長く身を置き、自然や建築、食、人との出会いを楽しむことで、作品の見え方も変わってくると思っています。そういうことから、この場所を「美術館」というより「アート・コロニー」だと考えています。作品を見るだけではなく、人が集い、滞在し、学び、新しい出会いが生まれる場所。清春芸術村が、そんな「暮らすように旅する時間」を体験できる場所であり続けられたらうれしいですね。 清春芸術村 Kiyoharu Art Colony 山梨県北杜市長坂町中丸2072 開館時間:10:00~17:00 (入館は16:30まで) 休館日:年末年始、月曜 (祝日の場合は翌平日) 入館料:一般1500円 大・高校生1000円 小・中学生 無料 https://www.kiyoharu-art.com/ 清春芸術村メンバーシップについて https://www.kiyoharu-art.com/?page_id=51
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