蛍手ノ酒器揃「宵待」 たにぐちちさと

蛍手ノ酒器揃「宵待」 たにぐちちさと

Brand: 高級陶器の専門店【甘木道】
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蛍手ノ酒器揃「宵待」 たにぐちちさと様 サイズ 蛍手ノ盛器:径23 × 高8.1cm ガラス蓋:径24 × 高1.4cm 蛍手ノ片口:10.5 × 10 × 高6cm 蛍手ノ盃:径5.4 × 高5.2cm ――「白磁の器に、宵の光が点となって灯る。酒を待つ時間までも美しく整える酒器揃」 Ⅰ この酒器揃の第一印象――“器の中に、もう一つの夜がある” 本作《蛍手ノ酒器揃「宵待」》は、白磁の盛器の中に、片口と盃を納め、さらに薄いガラス蓋を添えた酒器揃です。 まず印象的なのは、作品全体がひとつの箱庭のように見えることです。外側の盛器には青緑の点が帯状に巡り、内側にも同じく点の連なりが続いています。その中に、片口と複数の盃が静かに収まる。酒器でありながら、ただの道具の集合ではありません。ひとつの小さな景色、一夜の気配を閉じ込めたような作品です。 題名は「宵待」。日が暮れ、夜が来る少し前の時間です。明るさが完全には消えず、けれども昼の輪郭はほどけ始める。その曖昧で美しい時間が、白磁のやわらかな白と、青緑の点の連なりによって表されています。 器の中には、酒を注ぐための片口があり、それを受ける盃があります。そしてそれらを包む盛器と、半透明のガラス蓋がある。使う前の静けさ、酒を待つ時間、蓋を開ける所作。そのすべてが、本作の魅力に含まれています。 Ⅱ 盛器の構成――酒器を包む“白い夜の器” 外側の盛器は、径23cm、高さ8.1cm。低く広い円筒形の器です。 この盛器は、単なる収納器ではありません。片口と盃を包み込み、酒器揃全体の空気を整える舞台です。外側には青緑の蛍手が大きな帯となって巡り、白磁の肌に水面の波紋のような動きを生み出しています。 点は規則的に並びながらも、濃淡や密度に揺らぎがあります。濃く集まる部分、淡くほどける部分、列として見える部分、面として広がる部分。その変化によって、器の表面には静かなリズムが生まれています。 内側にも点の文様が入り、外と内がつながっています。ここがこの作品の大きな魅力です。外側だけに文様を施した器ではなく、蓋を開け、内側を覗き込んだ瞬間にも、青緑の点が目に入る。つまり、使う前、開ける瞬間、取り出す所作までが設計されています。 酒器を収める器であると同時に、酒席の場を整える器。白磁の静けさの中に、宵の空気を抱え込むような盛器です。 Ⅲ ガラス蓋――宵の霞をかける、薄い膜 本作には、径24cm、高さ1.4cmのガラス蓋が添えられています。 このガラス蓋の存在が、作品全体を非常に詩的にしています。完全に中を隠すのではなく、淡く透かしながら覆う。そこには、夜の始まりにかかる薄霞のような気配があります。白磁の酒器をガラスで覆うことで、作品は「見せる」と「隠す」の間に立ちます。蓋越しに中の器がぼんやり見え、開ける前から期待が生まれる。酒器揃でありながら、まるで茶道具の箱を開ける前のような、静かな緊張があります。 ガラス蓋は実用上の蓋であると同時に、作品全体に時間の層を与えています。蓋があることで、酒器はまだ使われていない状態、つまり「待っている」状態になります。題名の「宵待」と響き合うのは、まさにこの部分です。酒を注ぐ前の時間。客を迎える前の時間。蓋を開ける直前の時間。その待つ気配を、ガラスの薄い膜が美しく保っています。 Ⅳ 片口――注ぐための器に宿る、やわらかな中心 中央に置かれた片口は小ぶりながら、酒器揃の中心となる存在です。 片口は、酒を受け盃へ注ぐための器です。そのため、酒器揃の中では最も動きのある道具と言えます。本作の片口は、白磁のやわらかな丸みを持ち、口の一部が外へわずかに開いています。その小さな注ぎ口が、静かな器形に自然な動きを与えています。 内側には青緑の点が弧を描くように入り、酒を入れたときに、水面と文様が重なります。ここが非常に美しいところです。酒が満ちると、点の連なりは水面の下に沈み、あるいは縁の近くで淡く浮かび上がる。器の内側に描かれた小さな青緑の列が、酒の透明感と響き合います。 Ⅴ 盃――小さな器の中に、点の円環が浮かぶ 盃は径5.4cm、高さ5.2cm。小さく、掌に収まる寸法です。 この盃にも、内側に青緑の点が円環状に入っています。小さな器であるため、点の文様は外側の盛器ほど大きく広がりません。その代わり、盃の内側に静かな焦点をつくっています。酒を注ぐと、点の連なりは液面の下に沈み、光の屈折によってわずかに揺らぐはずです。盃を持ち上げ、口元へ運ぶ。その短い所作の中で、青緑の点が水中の泡のようにも、夜空に散る小さな星のようにも見えるでしょう。 盃の魅力は、主張しすぎないことです。白磁の小さな器として端正であり、そこにほんの少しだけ青緑の気配がある。酒の色を邪魔せず、香りを邪魔せず、しかし手に取った人には確かに余韻を残します。 複数の盃が揃っていることで、酒席に小さな連続性が生まれます。一客ごとに同じ気配を持ちながら、点の入り方や見え方にはわずかな差がある。そこに、手仕事の楽しみがあります。 Ⅵ 蛍手の表現――孔、光、点がつくる“宵の粒子” たにぐちちさと様の作品において、蛍手の点は単なる装飾ではありません。 白磁の素地に小さな孔を穿ち、そこに青緑の光を宿すことで、器の表面に透明感と奥行きが生まれます。本作では、その点が盛器、片口、盃へと繰り返し現れます。外側にあり、内側にもあり、大きな器にも小さな器にもある。点の反復によって、酒器揃全体に統一された空気が生まれています。 この点は、夜の灯りのようでもあります。まだ完全な夜ではなく、宵の空に少しずつ灯りが増えていく時間。その気配が、白磁の肌に青緑の粒として現れています。また、点の文様には水の印象もあります。酒、水面、泡、波紋。酒器という用途と、蛍手の点の表情が自然に結びついています。盃の中に酒が入り、片口から酒が注がれ、盛器の内側に器が並ぶ。そのすべての場面で、青緑の点は水や光の気配として働きます。 Ⅶ 酒席での表情――蓋を開け、器を取り、酒を注ぐ 本作の魅力は、置いて眺めるだけでは終わりません。むしろ、使う所作の中で表情が深まります。まず、ガラス蓋を外す。淡く隠されていた白磁の酒器が現れる。盛器の内側に、片口と盃が静かに収まっている。その時点で、酒席にひとつの儀式性が生まれます。 次に、片口を取り出し、酒を注ぐ。白磁の内側に酒が入り、青緑の点が液面と重なる。盃へ注ぐと、今度は小さな器の中で点が揺れる。酒を飲む前に、すでに視線と手の動きが整えられていくのです。この酒器揃は、豪快に飲むための器ではありません。少量の酒を、静かに、ゆっくり味わうための器です。冷酒、薄く澄んだ日本酒、あるいは少し香りのある酒がよく合うでしょう。酒の透明感と、白磁の清潔感、青緑の点の涼感が重なります。 酒を待つ時間、注ぐ時間、飲む時間。その流れを美しくするための酒器揃です。 Ⅷ 「宵待」という題名――使う前の時間まで作品にする 「宵待」という題名は、本作に非常によく合っています。 宵を待つとは、夜そのものではなく、夜になる前の気配を待つことです。明るさが少しずつ沈み、空気が柔らかくなり、灯りがひとつずつ意味を持ち始める。その時間には、派手さではなく、期待と静けさがあります。本作も同じです。ガラス蓋に覆われた状態では、酒器はまだ使われていません。片口も盃も、盛器の中で静かに待っています。そこに青緑の点が灯っている。まさに、酒席の始まりを待つ器です。 蓋を開けることで、宵が始まる。片口を手に取ることで、時間が動き出す。盃に酒を注ぐことで、白磁の中に小さな夜が満ちる。この作品は、酒を飲むための器であると同時に、酒を飲む前の美しい沈黙を形にした作品です。 Ⅸ 結び――白磁の中に酒席の静けさを納めた一揃 《蛍手ノ酒器揃「宵待」》は、白磁、蛍手、ガラス、片口、盃がひとつの世界として構成された酒器揃です。 盛器は酒器を包む白い舞台となり、ガラス蓋は宵の霞のように器を覆います。片口は酒を注ぐための中心となり、盃はその酒を受ける小さな夜の器となる。そしてそれら全体に、青緑の点が静かに巡っています。 たにぐちちさと様の蛍手表現は、ここでとても自然に酒器という用途と結びついています。点は水泡であり、波紋であり、灯りであり、星でもあります。酒を注げば、その点はさらに揺らぎ、器は使う人の手の中で完成します。 強い色や派手な造形で見せる酒器ではありません。むしろ、白磁の静けさの中に、青緑の粒がひそやかに息づく作品です。酒席に涼やかな余白を生み、客との時間を静かに整える。 宵を待ち、蓋を開け、酒を注ぎ、盃を交わす。 その一連の時間までも美しくする、清澄で詩情ある酒器揃です。 略歴 1976 京都・東山に生まれる 1999 同志社大学法学部 卒業 2000 京都府立陶工高等技術専門校 修了 2001 京都市立工業試験場 修了 2002 清水保孝様に師事 2010 ガラス制作補助 2019 陶芸を再開 2024 京焼・清水焼展 京都市長賞 2025 第12回陶美展 特別賞〈ギャラリー山咲木賞〉 2025 第17回現代茶陶展 TOKI織部大賞 現在 日本工芸会 正会員

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