火野葦平小説集 戦後の兵士たち
戦争責任への誠実と苦悩を描いた戦後の火野葦平短編集 アジア太平洋戦争の死者は310万人とも360万人ともいわれる。数十万人もの誤差は、日本政府が正確な調査を怠ってきたことによる。そのうち軍人・軍属の死者は212万人~230万人、多くが1944年~45年の戦争末期、しかも大多数は餓死である。 死者たちをめぐる悲しみ、痛憤は戦後、さまざまな形で物語られてきたが、還ってきた兵士たちのそれもひと通りではない。本書は、〝戦犯作家〟と呼ばれた火野葦平が、自身の「戦争責任」を問いつつ、身辺に起きた戦後の兵士たちの身の上をえがいた中短編集である。 ようよう帰還したもののそこに最愛の妻はおらず、精神を壊され、知人を訪ね歩く兵。手足を失い、恥じるように還ってみれば、原爆で一家壊滅というべき事態に遭遇する兵。傷痍軍人への目は畏敬からいつしか侮蔑に変わり、変わる速度に合わせて「戦争」が遠ざかり、軍国主義をさらりと〝民主主義〟に着替えた皇軍兵士はあまたいる。 その転身ぶりを横目に、わが身に突き刺さる非難、上海・中国で出遭う「日本鬼子兵」の言葉と眼差し……をかわさず、間違っていたのか、なぜ間違ったのか、とくり返し問い、のたうつ姿をさらす葦平。愚直に苦悩するその姿を近くで見ていたのは甥の医師・中村哲。中学にあがろうかという多感な少年の心に深く刻まれた。 戦後80年を経、今また政府の行為によって「戦争」にのめり込んでいく世上のなかで、「戦争」が人間に何をもたらすかを考える恰好の小説集。
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